アナウンサー
専門脳科学・心理学を使ったあがり症の克服
朝礼や会社の発表、式典でスピーチを頼まれた。原稿を書いたのに、読むと棒読みになる。話している途中で退屈そうな顔が目に入り、頭が真っ白になる。そんな人に向けて、スピーチのコツと話し方、練習方法をまとめました。
スピーチのコツは、話し方を磨く前に、読むための原稿を、話すためのメモに書き換えることです。1分のスピーチを例に、原稿を3回書き換える手順と、メモ1枚で話すまでの練習を紹介します。
原稿の書き方と構成、1分・3分スピーチの文字数、丸暗記しない覚え方、演説のコツもまとめました。監修は、NHKで32年間アナウンサーを務めた元NHKエグゼクティブアナウンサーの吉松欣史です。
スピーチのコツは原稿を話すメモに書き換えること:
1分の見本

原稿を読むと棒読みになり、話がまとまらない人へ
※出典:Yahoo!知恵袋「社会人3年目の20歳男です。最近は人前に立って話す機会が増えてきました。」
この方は社会人3年目で、人前に立って話す機会が増えてきたそうです。聞き手の反応が気になると、原稿を目で追うことに逃げ込みがちです。原因の多くは、原稿が「読むための文章」のままになっていることにあります。

原稿を3回書き換える
書いた原稿は、目で読むと分かりやすくても、耳で聞くと長くて追いにくい文章です。そこで、本番までに3回書き換えて、最後は段落の頭の言葉だけが並んだメモにします。3回の中身は次のとおりです。
- 1回目聞き終わった人に残したいことを1文で書く
- 2回目1文を短く切り、耳で分かる言葉に直す
- 3回目段落の最初の言葉だけを抜き出してメモにする
3回目のメモには、文章を書きません。段落ごとに最初の言葉と、忘れたくない数字だけを残します。メモに文章がないから、目線を上げて話せるのです。下を向いて原稿を読み続けることが、自然となくなります。

1分スピーチの見本:原稿からメモまで

2回目では、1文に言いたいことを1つだけにして、「〜であり」「〜のである」のような書き言葉を、ふだん話す言い方に直しています。数字は耳に残るように、文の最後に置きました。こうすると、読み上げても棒読みに聞こえにくくなります。
書き換えたら1回だけ録音して数える
メモができたら、メモだけを見て1回話し、スマホで録音します。聞く時は、かかった時間と、言い直した回数の2つだけを数えます。1分の予定が1分半なら、言いたいことが多すぎる合図なので、2回目の原稿に戻って削ります。
スピーチの話し方のコツ:
速さ・間・語尾と、聞き手への視線

速さは1分300字前後を目安にする
聞き取りやすい速さの目安は、1分間に300字前後です。元NHKキャスターの矢野香さんは、これをNHKのアナウンサーがニュースを読む速さと紹介し、一般的なビジネスパーソンは1分450字ほどで話すと書いています。
※出典:PRESIDENT Online「『早口』と『ゆっくり』、どちらの話し方がいい?」(矢野香・2016年5月)
※出典:日経クロストレンド「プロのアナウンサーに聞く プレゼンで勝てる話し方(1)」(NHKのアナウンサーは1分300字の速さで話すといわれる、との記述・2019年8月)
つまり、ふだんの速さで話すと、聞き手にはかなり速く聞こえます。原稿の字数を数え、録音した時間で割れば、自分の速さが分かります。

間は段落の変わり目で、語尾は言い切る
間は、メモの「/」の所、つまり段落の変わり目で取ります。ひと呼吸おくと、聞き手は今の話を受け止めてから次を聞けます。語尾は「〜です」「〜ました」まで、声を落とさずに言い切ると、自信がなさそうに聞こえません。
退屈そうな顔が見えたら、うなずく人を見て話す
話している途中で退屈そうな人が目に入ると、自分の話がつまらないのではと不安になります。けれども、その人は眠いだけかもしれませんし、ほかの用事を考えているのかもしれません。表情だけで、話の良しあしは決まりません。

話し始める前に、うなずいてくれそうな人を2〜3人見つけておき、その人たちを順に見ながら話します。反応のある人を見ていると、声も表情も落ち着いてきます。退屈そうな人に向けて話し方を変える必要はありません。
元NHK
アナウンサー
ヨシ
「どう見られるか」への意識を「何を届けるか」へ転換。
吉松欣史が指導の柱の一つに挙げているのが、この意識の向け方です。どう見られているかを気にするほど、聞き手の表情の一つ一つが気になります。1回目の原稿で決めた「残したい1文」を届けることに意識を戻してください。
身ぶりは1つの話に1つだけ
身ぶりは多ければよいわけではありません。手をずっと動かしていると、聞き手は手の動きに気を取られます。数を言う時に指を立てる、大事な1文で手を前に出すなど、1つの話に1つだけ決めておくと、自然に見えます。
スピーチ原稿の書き方と構成:
冒頭・本文・結びの3つに分ける

最初に「聞き終わった人に残したい1文」を決める
スピーチ原稿を書く時は、最初の1行から書き始めるのではなく、聞き終わった人に覚えていてほしい1文を先に決めます。この1文が決まらないまま書き始めると、話があちこちに広がり、まとまらないスピーチになります。
冒頭・本文・結びの配分
構成は、冒頭で何の話かを伝え、本文で理由や具体例を話し、結びで残したい1文をもう一度言う3つに分けます。結論から話すPREP法も使えます。使い方は論理的な話し方のトレーニングで紹介しています。

始め方と締めの一言
※出典:Yahoo!知恵袋「職場での朝礼スピーチうまくまとめたいです。」
始め方は「今日は、〇〇についてお話しします」と、何の話かを一言で伝えるのが一番やさしい形です。締めは、残したい1文をもう一度言い、「以上です。ありがとうございました」で終えれば、聞き手にも終わったことが伝わります。
書き言葉を話し言葉に直す
| 原稿の書き方 | 直し方 | 直した例 |
|---|---|---|
| 長い1文 | 1文に言いたいことを1つ | 〜であり → 〜です。 |
| 漢字の多い言葉 | 耳で分かる言葉に | 削減する → 減らす |
| 「〜である」 | 「〜です」「〜ます」 | 重要である → 大事です |
| 数字だけ | 比べる物を添える | 半分に → 先月の半分に |
直し終わったら、声に出して読んでみてください。息が続かない文や、自分でもつかえる言葉は、聞き手にも届きにくい所です。声に出して引っかかった所だけを直すと、書き換えの手間も少なくて済みます。
1分・3分スピーチと即興スピーチ:
長さ別の文字数
スピーチの長さが決まっている時は、1分300字前後の目安から逆算して原稿の字数を決めます。書いた原稿を字数で数えておけば、本番で時間が足りない、余るといった心配が減ります。
話す長さと原稿の字数の目安(1分300字前後で計算)
約150字
約300字
約900字
※1分300字前後は、NHKのアナウンサーがニュースを読む速さとして紹介されている目安(PRESIDENT Online・日経クロストレンド)から計算

1分間スピーチのコツ:話す中身は1つ
1分間スピーチは、約300字です。この長さで話せる中身は1つだけと考えてください。出来事を1つ選び、そこから感じたことを1文で言えば、それで1分になります。あれもこれもと詰め込むほど、早口になり伝わりません。

3分間スピーチの話し方:中身は3つまで
3分間スピーチは約900字で、中身を3つまで入れられます。冒頭で「3つお話しします」と数を先に言い、話の変わり目で「次に」「最後に」と区切ると、聞き手は今どこを聞いているかが分かり、退屈しにくくなります。
急に振られた即興スピーチは結論と例を1つずつ
急に一言を頼まれた時は、結論と例を1つずつ話せば30秒になります。「〇〇が大事だと思います。先日、〇〇がありました」の2文です。朝礼の話題は朝礼スピーチのネタ30選、結婚式なら友人代表スピーチの例文が参考になります。
スピーチの練習方法:
本番3日前・前日・当日の朝にすること

スピーチの練習は、回数を増やすより、日ごとにやることを分けたほうが身につきます。本番の3日前から始める時は、次の順番で1回10分ほど練習します。
- 3日前:2回目の原稿を声に出して通し、時間を測る
- 前日:3回目のメモだけで話し、録音を聞く
- 当日の朝:冒頭と結びの1文だけを声に出す
3日前に時間を測るのは、長すぎる原稿をこの段階で削るためです。前日はメモだけで話すので、言葉が少し変わっても構いません。原稿どおりに言えたかではなく、伝えたい1文が言えたかで確かめてください。

録音を聞く時は1回に1つだけ直す
録音を聞くと、直したい所がいくつも見つかります。けれども一度に全部を直そうとすると、次の練習で何を意識すればよいのか分からなくなります。速さ、語尾、間のうち、今回は1つだけと決めて直してください。

人に聞いてもらう練習と発声練習
できれば、家族や同僚に1回だけ聞いてもらいます。感想は「何の話だったか」を一言で言ってもらうだけで十分です。その一言が、1回目に決めた残したい1文と同じなら、そのスピーチは伝わっています。
声そのものを整えたい人は、自宅ボイトレと発声練習のやり方の1日10分のメニューが合っています。人前で話すこと自体に慣れる練習やトレーニングは、人前で緊張しない方法で紹介しています。
スピーチ原稿の覚え方:
丸暗記しないで覚えるコツ

一字一句の丸暗記は、1つ忘れると全部が止まる
原稿を一字一句覚えようとすると、1つの言葉を忘れた瞬間に、その先が出てこなくなります。監修の吉松欣史も、NHKに入って間もない頃、生中継のコメントを丸暗記して本番に臨み、始まった瞬間に全部が飛んだと振り返っています。
元NHK
アナウンサー
ヨシ
ルーキー時代、祇園祭の生中継を任されたとき。コメントを一字一句、丸暗記して本番に臨んだのに、始まった瞬間、全部、飛びました。
段落の最初の言葉だけを覚える
覚えるのは、3回目のメモに書いた段落の最初の言葉と、その順番だけです。最初の言葉が出れば、その段落で何を話すかは自然に思い出せます。言い回しが練習と少し変わっても、聞き手は気づきません。
メモを見ながら話してもよい
メモを手に持って話すのは失礼ではありません。朝礼や会社の発表なら、手のひらに収まるメモを持つのは自然なことです。下を向いて読み続けず、段落の変わり目でちらりと見るだけにすれば、聞き手の顔を見て話せます。

真っ白になったらメモの次の言葉に戻る
話している途中で頭が真っ白になったら、メモに目を落とし、次の段落の最初の言葉から言い直します。「失礼しました」と一言はさんでも構いません。戻る場所が決まっていれば、止まっても話は続けられます。
演説のコツ:
大勢の前や屋外で話す時に変えること

一番遠くの人に届く声と速さにする
大勢の前や屋外で話す演説では、室内のスピーチより声が届きにくくなります。一番遠くにいる人を見て、その人に話しかけるつもりで声を出すと、声の大きさが自然に決まります。速さも、室内の時より少し落とします。
マイクがある時も、声を張り上げる必要はありません。口元とマイクの距離を一定に保ち、語尾まではっきり言うことのほうが大切です。声を大きくする練習は、声を大きくする方法で紹介しています。

1文を短くし、大事な1文はくり返す
屋外では、周りの音で言葉の一部が聞こえないことがあります。1文を短くし、一番伝えたい1文は冒頭と結びで2回言います。くり返すことで、途中から聞き始めた人にも、何の話だったかが伝わります。
選挙の演説のように、聞き手に投票などの行動を求める話は、組み立て方がさらに変わります。詳しくは人を動かす選挙スピーチの作り方で紹介しています。
スピーチでやってはいけないこと・よくある誤解

避けたいこと:言い訳と時間の延長
「急に頼まれたので準備ができていませんが」と言い訳から入ると、聞き手は話を聞く前から期待を下げてしまいます。また、決められた時間を延ばすのも避けます。長くなるほど、残したい1文が埋もれてしまいます。
誤解①:上手い人は原稿なしで話している
スピーチが上手な人は、何も見ずに思いつきで話しているように見えます。けれども多くの場合、話す順番と伝えたい1文を前もって決め、何度も声に出しています。原稿がないように見えるのは、準備の結果です。

誤解②:たくさん練習すれば緊張は消える
練習を重ねても、本番の緊張がなくなるとは限りません。練習で得られるのは、緊張していても戻れる場所です。メモの言葉と残したい1文が決まっていれば、緊張したままでも最後まで話せます。
誤解③:話が上手い人は生まれつき
話し方には向き不向きがあると思われがちです。けれども、原稿を話す言葉に直すこと、速さや間を録音で確かめることは、誰でも練習で身につけられます。吉松欣史も、新人の頃は人前で頭が真っ白になっていました。

ここまでの準備をしても、スピーチの場面で声が震える、頭が真っ白になるという人は、話し方より緊張との付き合い方が問題なのかもしれません。緊張の扱い方は人前で緊張しない方法とプレゼンの緊張を克服する考え方で紹介しています。
💡 緊張がつらい状態が続く方へ
人前で話す場面を考えるだけで動悸がする、眠れない日が2週間以上続く、仕事を休みたいほどつらいという時は、話し方の練習より先に、心療内科や精神科、職場の産業医に相談してください。厚生労働省の働く人のための相談窓口「こころの耳」では、電話やSNSで相談できます。
原稿もメモも準備したのに、スピーチの本番になると声が震え、言いたいことが出てこない方へ。新人の頃は自分も頭が真っ白になっていた吉松欣史が、32年の生放送でたどり着いた話し方の考え方を伝える、無料のオンライン勉強会があります。
講師の吉松欣史は、NHKで32年間アナウンサーを務め、サッカーW杯とオリンピックの実況を担当した元NHKエグゼクティブアナウンサーです。勉強会は無料のオンライン形式で、60分・顔出し不要です。人前で話す時の緊張が悩みの中心の方に向けた内容です。
※通院中・治療中の方は、この記事の方法より主治医の方針を優先してください。
\ 人前で話す時の緊張が中心の方へ /
スピーチのコツと練習でよくある質問
Qスピーチが上手くなるには、何回練習すればいい?
Q原稿を見ながら話してもいいですか?
Qスピーチとプレゼンの話し方は違いますか?
Q朝礼のスピーチは何を話せばいい?
Q結婚式のスピーチにも使えますか?
Q声が小さいと言われます
スピーチのコツは、読むための原稿を3回書き換えて、段落の頭の言葉だけのメモにすることです。メモ1枚なら顔を上げて話せ、退屈そうな顔が見えても、うなずく人を見て残したい1文を届けられます。人前で話す時の緊張が中心の方は、吉松欣史の無料オンライン勉強会(60分・顔出し不要)で、緊張と付き合いながら話すための考え方を知ってください。
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