「アナウンサーになるには、どの大学・学部に行けばいいのか」——受験生や大学生からよく聞かれる質問です。実は「有利な大学・学部」という問いの立て方自体が、すでに遠回りへの入り口になっています。
この記事では、元NHKエグゼクティブアナウンサー・吉松欣史の監修のもと、アナウンサーを目指す人が大学選び・学部選びで本当に考えるべきことを徹底解説します。
- 大学名・学部よりも「在学中の4年間の使い方」がアナウンサー採用を左右する理由
- 早稲田・慶應出身者が多い本当の理由と、大学選びで見るべき「環境の条件」
- NHK・キー局・地方局、目指す局によって変わる大学時代の過ごし方
アナウンサー採用は「大学ブランド」より「大学での過ごし方」で決まる理由
「早稲田・慶應に行けばアナウンサーになれる可能性が上がる」という認識は、半分正しくて半分間違っています。確かに有名大学出身のアナウンサーは多いです。しかし採用選考で大学名がプラスに働くのは、書類通過のほんの入口だけです。
NHKに32年在籍し、数多くの採用選考に近い立場で関わってきた経験から言えるのは、「どの大学か」より「その4年間に何をしたか」のほうが、採用判断に圧倒的に影響するということです。
書類通過と最終合格は「まったく別の基準」で決まる
アナウンサー採用の選考は、大きく分けて「書類・筆記」と「アナウンス審査・面接」の2段階です。書類選考では大学名が一定の目印になることはあります。しかし最終合格を決めるのは、ほぼ100%「対面でのその人自身の力」です。
アナウンス審査と面接の場では、大学名は関係ありません。「この人の言葉は届くか」「この人は何かを伝えたい熱量があるか」——そこだけが問われます。早稲田・慶應でも最終選考で落ちる人はたくさんいますし、地方の国立大学から最終合格する人も出てきます。
採用担当が見ている「大学生活の中身」3つ
面接やエントリーシートで採用担当が確認しているのは、次の3点です。
第一に、「人前で言葉を届けた経験があるか」。ゼミ発表・部活の主将・学園祭の企画運営——何であれ、人に何かを伝える場に積極的に関わってきたかどうかが問われます。
第二に、「自分の言葉で語れるエピソードがあるか」。「スクールで練習しました」より「この体験から言葉の力を実感しました」というエピソードのほうが、面接で圧倒的に印象に残ります。
第三に、「言葉・メディア・社会への本物の関心があるか」。アナウンサーになりたい動機が「人前に立ちたい」だけの人と、「言葉で何かを伝えたい」という人は、話の中身で透けて見えます。
💡 エントリーシートで差がつくポイント
「アナウンススクールに通いました」という記述より、「〇〇というサークルでイベント司会を担当し、〇〇人の前で話した」という具体的な経験のほうが読み手の印象に残ります。大学の名前ではなく、大学での行動が問われています。
アナウンサー志望者が大学を選ぶときに見るべき「環境」の条件
大学を「偏差値」や「学部名」で選ぶ前に、アナウンサー志望者が確認すべき「環境の条件」があります。これは進学情報サイトには載っていない視点ですが、在学中にどれだけ実践的な経験を積めるかを左右する重要な要素です。
条件①:放送・メディア系サークルの活発さ
アナウンサー志望者にとって最も価値のある課外活動のひとつが、学内の放送サークルやアナウンス研究会です。実際に学内放送でアナウンスをする・イベント司会を担当する・番組制作を経験する——こうした活動が、アナウンス審査での「実践的な場数」になります。
入学前に「そのサークルが実際に活動しているか・何人規模か」を確認することが大切です。名前だけのサークルも存在するため、オープンキャンパスで直接聞くか、SNSで活動実績を確認してください。
条件②:OB・OGにマスコミ関係者が多いか
就職活動の場面で、OB・OG訪問は情報収集の重要な手段です。在学中に「局で働くアナウンサーと話せる機会」があるかどうかは、志望動機の深まりや面接対策に直結します。
マスコミ・放送業界に就職者が多い大学では、OB・OGとのつながりを作りやすい環境があります。大学のキャリアセンターでOB・OG一覧を確認できる場合は、放送局出身者の数を調べてみてください。
条件③:アナウンス技術を学べる授業・コースがあるか
一部の大学では、正式な授業としてアナウンス実習・スピーチ実習・放送実習を開講しています。これらの授業が受けられる環境は、アナウンススクールとは別の学習機会として価値があります。
ただし、授業の存在は「条件のひとつ」であり、それだけで大学を選ぶ根拠にはなりません。授業の質・担当教員の実務経験の有無まで確認できると、より正確な判断ができます。
元NHKアナウンサー
ヨシ
大学を選ぶときに「偏差値と学部名」しか見ていない人は多いんですが、私がアドバイスするなら「その大学のアナウンス研究会が何をやっているか」を先に調べてほしい。そこが活発かどうかで、4年間の実践量がまったく変わってきます。
早稲田・慶應出身者が多い本当の理由——大学名ではなく「環境」が生み出す差
アナウンサーの出身大学として早稲田・慶應の名前がよく挙がります。データとして早稲田出身のアナウンサーが多いのは事実ですが、それは「早稲田ブランドが評価されている」からではありません。理由は別のところにあります。
早稲田・慶應から多く出る3つの構造的理由
理由①:志望者の母数が多い
全国的に知名度が高く、メディア志望者が集まりやすい大学です。アナウンサー志望者自体の数が多ければ、合格者数も自然と多くなります。
理由②:放送・メディア系サークルが充実している
早稲田の雄弁会・慶應の放送研究会のように、人前で話す機会が豊富な課外活動の場があります。在学中に積み上げられる「話す経験」の量が多い環境が整っていることが、採用につながっています。
理由③:OB・OGネットワークが機能している
放送局にOB・OGが多いため、就活情報・OB訪問・模擬面接などの支援が受けやすい。情報格差が合否に影響する就活において、これは大きなアドバンテージです。
「早稲田に行けばなれる」は完全な誤解
早稲田・慶應に進学しても、4年間を何となく過ごした人はアナウンサーになれていません。サークルで実践を積み、OBとつながり、言葉と向き合い続けた人が選ばれています。
逆に言えば、地方大学でも「放送サークルで司会を数十回経験した」「自分でポッドキャストを作って言葉を磨いた」という4年間を送った人は、早稲田の何もしなかった学生より採用に近いです。大学名はスタートラインを少し変えるだけで、ゴールを変える力はありません。
💡 どの大学でも「早慶の環境」は作れる
①学内の放送・アナウンス系サークルに入る②OB・OG一覧でマスコミ出身者を探してアポを取る③学祭・学内イベントの司会に積極的に手を挙げる——この3つで、大学の規模に関わらず実践環境は作れます。
学部選びより10倍大事な「在学中4年間の使い方」
アナウンサーをめざす大学生が最も時間を使うべきは、学部選びの悩みでも偏差値の研究でもありません。入学後の4年間をどう設計するか——これが採用を左右する唯一の変数です。
1年生:「話す場」に意図的に飛び込む
入学直後は、とにかく「人前で話す機会を持つ場」に身を置くことが最優先です。放送・アナウンス系サークルへの入部はその筆頭ですが、学祭の実行委員・授業内でのプレゼン機会・ゼミでの発表なども「話す場」として機能します。
この時期に大切なのは「上手く話すこと」より「数をこなすこと」です。失敗しても許されるのが1年生の特権。意図的に失敗を積み重ねることで、人前での「慣れ」とは違う「自分なりの話し方の軸」が見えてきます。
2〜3年生:「言葉を記録する習慣」を作る
採用試験のエントリーシートや面接で評価されるのは、「言葉の選び方の豊かさ」です。これは短期間では身につきません。2〜3年生のうちから始めるべき習慣として、「言葉ノート」の作成をすすめます。
読んだ本・見たニュース・聞いた話の中で「この表現はいい」「この言い回しは面白い」と感じた言葉を書き留める。月に30〜50個貯まると、2年後には語彙と表現の引き出しが劇的に増えています。面接でとっさに「自分の言葉」が出てくるかどうかは、この積み重ねで決まります。
3〜4年生:「自分の声を客観的に聞く」訓練を本格化させる
アナウンス審査の本番が近づく時期に最も効果的な準備が、録音→聞き直し→改善のサイクルです。
自分の声を録音して聞くと、多くの人が初めて「思っていた声と実際の声の違い」に気づきます。「間が短すぎる」「語尾が下がりすぎる」「特定の言葉でつまる」——これらは録音しないと気づけません。週2〜3回、1回5分でいいので、録音→聞き直し→課題発見→改善を繰り返してください。
元NHKアナウンサー
ヨシ
私がNHKに入局して最初の半年で最も驚いたのは、先輩アナウンサーたちが「自分の放送を必ず録画・録音して見直す」習慣を持っていたことです。上手い人ほど、客観的に自分を見る習慣がある。大学生のうちからこれをやっておくと、入局後の成長が全然違います。
アナウンススクールの選び方と「通うだけにならない活用法」
アナウンサーを目指す大学生がスクールに通うことは、今やほぼ標準になっています。しかし「スクールに通えば合格が近づく」という誤解も根強い。スクールは手段であり、使い方を間違えると逆効果になることもあります。
スクールの種類と特徴
放送局直営スクール(NHK・フジ・TBS等)
局の採用情報に近い位置にあり、内部の採用傾向を知る講師から学べる点が強みです。費用は高めですが、同じ志を持つ受講生とのネットワークも形成できます。
民間アナウンススクール
費用・カリキュラム・講師の質は学校によって差が大きい。講師が現役・元アナウンサーかどうか、実際の授業見学ができるかを必ず確認してください。元アナウンサーでない講師による技術指導は、採用現場との乖離が生じやすい点に注意が必要です。
「通うだけ」にならないための3つの心がけ
①スクールの「型」を習得したら、自分の言葉に変換する
スクールで教わる発声・発音・原稿読みの技術は「型」です。型を身につけた後に大切なのは、その型を使って「自分らしい話し方」に仕上げることです。型を真似ているだけの段階で採用審査を受けると、「スクールで練習してきた感」が出て逆効果になります。
②スクール内での「評価」に安心しない
スクール内で上位にいても、採用試験では別の結果になることがあります。スクールの評価は「スクール内の序列」であり、採用の序列ではありません。スクールの外でも実践の機会を作り続けることが大切です。
③通い始める時期は大学2年生後半〜3年生が目安
1年生からスクールに通い始めても、実践を積む場が学内にあれば並行して問題ありません。ただし「スクールに通うことが目的」になってしまうケースは、どの時期でも起こります。スクールで学んだことをどこで使うかを常に意識してください。
⚠️ スクール選びで注意すべき1点
「このスクールに通えば〇〇局に合格できる」というセールストークには注意が必要です。スクールと採用は別です。実績として「過去の合格者数」は参考になりますが、その年の採用人数・応募者数との比率まで確認するのが正確な判断です。
大学生のうちに積み上げるべき「言葉の貯金」——語彙・読書・音声体験
アナウンス技術の習得と並行して、大学生活の中で積み上げるべきことがあります。それが「言葉の貯金」です。採用試験のフリートークや面接で「自分の言葉で語れるか」を決めるのは、4年間の言葉との付き合い方です。
語彙の貯金:「言葉ノート」と多読
語彙を増やす最も効果的な方法は、「いい言葉に出会ったら書き留める」習慣です。辞書を丸ごと覚えるより、自分が「これは使いたい」と思った言葉を手元に残すほうが、実際の場面で出てきやすくなります。
読書については、ジャンルを偏らせないことが大切です。ニュース・スポーツ・文化・経済・科学——アナウンサーはあらゆるテーマを扱います。月に1冊でも、自分が普段読まないジャンルの本を読む習慣が、4年後に大きな差を生みます。
音声体験の貯金:「聞くプロ」から学ぶ
アナウンサーをめざすなら、「伝わる話し方」をしている人の音声を意識的にインプットする時間を作ってください。
NHKのラジオニュース・ドキュメンタリーのナレーション・優れた講演のポッドキャスト——ただ聞き流すのではなく、「なぜこの人の話は伝わるのか」を分析しながら聞くことが大切です。「間の取り方」「強調の位置」「テンポの変化」——これらを言語化できるようになると、自分の話し方の改善点が自然に見えてきます。
経験の貯金:「語れるエピソード」を意図的に作る
面接で問われるのは「あなた自身のこと」です。「なぜアナウンサーをめざしているのか」「大学時代に最も力を入れたことは何か」——これらの問いに対して、スクールで練習した以外の「自分だけの経験」から語れるかどうかが評価を分けます。
ボランティア・留学・アルバイト・地域活動——何でも構いません。「その経験から言葉について・人について何を学んだか」を語れるエピソードを、在学中に意図的に作っておいてください。
目指す局によって変わる「大学時代の過ごし方」
NHK・民放キー局・地方局では、採用で重視されるポイントに違いがあります。志望する局によって、大学時代に力を入れるべきことが変わってきます。
NHKを目指す場合
NHKは公共放送として、報道・ドキュメンタリー・教育・国際放送など幅広いジャンルを扱います。採用では社会への関心の深さ・日本語への真摯な向き合い方・多様なテーマを理解する知的好奇心が重視される傾向があります。
大学での過ごし方として有効なのは、社会課題・国際問題・地域活動への参加です。「自分が取材したいテーマ・伝えたいこと」を面接で語れる深みを作っておくことが、NHK志望者には特に大切です。
民放キー局を目指す場合
フジテレビ・TBS・テレビ朝日・日本テレビ・テレビ東京の各局は、それぞれ「局のカラー」があります。「自分がその局に合うか」を採用側は見ており、局の番組をよく見て理解していることが前提です。
バラエティ・情報・報道など番組の幅が広い民放では、「どんな場面でも対応できる柔軟さ」と「その局ならではの空気感に合う個性」の両方が求められます。大学時代は様々なジャンルの番組・コンテンツに触れておくことが実際の面接で活きてきます。
地方局を目指す場合
地方局は採用人数がキー局より多く、1人のアナウンサーがニュース・情報・スポーツを幅広く担当します。「地域への関心」「1人で何でもこなす適応力」が評価されやすいため、多様な場面で話した経験があることが強みになります。
地元の放送局を目指す場合は、その地域の話題や特性に関心があることを示せると印象が良くなります。地元出身であることや、地域に根ざした活動経験はアピールポイントになります。
元NHKアナウンサー
ヨシ
私がNHKを選んだのは、「伝えたいこと」の多様さに惹かれたからです。スポーツも、ニュースも、ドキュメンタリーも——どのジャンルにも本気になれる人は、NHKに向いています。どの局を志望するかで、大学時代に深めるべき「関心の方向」が変わってくると思います。
アナウンサー志望の大学生が「大学時代に」やりがちな3つの勘違い
アナウンサーをめざす大学生に共通する「遠回りのパターン」があります。大学時代という限られた時間を有効に使うために、早めに知っておいてほしい3つの勘違いを整理します。
勘違い①:スクールに通えば安心という思い込み
「スクールに入ったからアナウンサーへの道が開けた」と安心してしまうケースがあります。スクールはあくまでも技術を学ぶ場所であり、実践の場ではありません。学んだ技術をどこで使うか・どんな場面で磨くかが、スクール通いの効果を決めます。
スクールに週1〜2回通いながら、学内でも人前で話す機会を増やす——この「並行戦略」が正解です。
勘違い②:ミスコン・アナ研への入賞が有利という思い込み
ミスコンへの出場やアナウンサー研究会での実績を「強みになる」と信じている学生は多いです。しかし採用の現場では、これらの実績が直接評価されることはほぼありません。
ミスコンへの参加が「人前に出ることへの積極性」の証明になる場合はありますが、入賞そのものは採用に関係しません。それより「何を目的に参加し、そこから何を学んだか」を語れるかどうかが問われます。
勘違い③:3年生から準備を始めれば間に合うという思い込み
「就活は3年生から」という感覚で、アナウンサーへの準備も3年生から始める学生がいます。しかし採用審査で問われる「言葉の貯金・人前での経験・自分のエピソード」は、3年生からでは積み上げる時間が足りません。
1〜2年生のうちから意識的に動いている学生と、3年生から動き出した学生では、アナウンス審査や面接の場での「厚み」が違います。アナウンサーへの準備は、大学入学直後から始めるのが正解です。
⚠️ 「3年生から始めれば間に合う」が通じない理由
一般的な就活と違い、アナウンサー採用では「在学中に積み上げた経験の量と質」が直接問われます。短期間でスクールに通い詰めても、経験の薄さはフリートークと面接で露呈します。1〜2年生のうちから「話す場・言葉と向き合う場」に身を置くことを強くすすめます。
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