アナウンサー
専門脳科学・心理学を使ったあがり症の克服
上司に仕事を頼まれすぎているのに「大丈夫です」と答えてしまう。お客様の無理な要望にも言い返せず、話し合いの後はもやもやしたまま帰る。そうして本音を飲み込む日が続くと、仕事そのものが少しずつ重くなっていきます。
アサーティブコミュニケーションは、自分も相手も大切にしながら、言いにくいことを率直に伝える話し方です。言い方の型と例文を先に持っておけば、本番で言葉を探さずにすみます。吉松欣史の監修で、相手別の例文12を紹介します。
アサーティブコミュニケーションとは:本音を飲み込む言い方・強すぎる言い方を直す

自分も相手も大切にして、率直に言う話し方
アサーティブ(assertive)は、もともと「自分の考えをはっきり言う」という意味の英語です。仕事で使う時は、相手を責めず、自分を押し殺しもせず、言いたいことを正直に伝える話し方を指します。アサーションとも呼ばれます。
反対の言い方は2つあります。言いたいことを飲み込む受け身の言い方(ノンアサーティブ)と、相手を言い負かそうとする強すぎる言い方(アグレッシブ)です。3つのタイプとDESC法の練習はアサーショントレーニングの記事で紹介しています。

言いにくい場面を3つの言い方で比べる
同じ場面でも、言い方しだいで相手の受け取り方は大きく変わります。職場でよくある言いにくい場面を5つ選び、飲み込む言い方と強すぎる言い方、アサーティブな言い方を表に並べました。右の列が、この記事で目指す言い方です。
| 場面 | 飲み込む/強すぎる | アサーティブ |
|---|---|---|
| 仕事が多すぎる | 「大丈夫です」/「無理です」 | 「今週は手一杯です。どれを先にしますか」 |
| 会議で反対したい | 黙っている/「それは違います」 | 「別の案もあるので、1分だけいいですか」 |
| 部下のミス | 黙って自分で直す/「何度言えば分かるの」 | 「3か所違っていました。次は一緒に見直そう」 |
| 無理な要望 | その場で引き受ける/「できません」 | 「その日は難しいのですが、翌日ならできます」 |
| 頼まれごと | 引き受けて残業する/「忙しいので」 | 「今日は無理ですが、明日の午後ならできます」 |

4つの柱を仕事の言葉に直す
アサーティブには、率直・誠実・対等・自己責任の4つの柱があるといわれます。言葉だけでは分かりにくいので、仕事の場面で何をすればよいかに直しました。話す前に、4つのどれかが欠けていないかを確かめてみてください。
- 率直遠回しにせず、何をしてほしいかを1文で言う
- 誠実本心と違う「大丈夫です」を返事にしない
- 対等上司にもお客様にも、へりくだりすぎず責めもしない
- 自己責任言った結果を引き受け、言わなかったことを人のせいにしない
事実・気持ち・お願いの順で話すと角が立たない
この記事の例文12は、どれも「事実、気持ち、お願い」の順で作っています。DESC法の4段階を、仕事ですぐ使えるように3つにしぼった形です。先に事実を言うと、相手は責められたと感じにくく、話を最後まで聞いてくれます。
例文はどれも書き手が作った見本で、上司・部下と同僚・お客様の順に4つずつ並べました。上司には判断に要る事実を渡し、部下や同僚には人ではなく起きたことを話すのが共通の考え方です。自分の職場の言葉づかいに合わせて直してください。
上司に使えるアサーティブコミュニケーションの例文4つ

①仕事を頼まれすぎて手が回らない時
「大丈夫です」と引き受け続けると、締め切りの直前に全部が遅れ、かえって信頼を失います。抱えている仕事を事実として伝え、どれを先にするかを上司に決めてもらいます。そうすると、断るのではなく相談になります。
例文① 上司へ・仕事が多すぎる時
「今週はA社の見積もりと、月次の資料で手一杯です。」
「このままだと、どちらかが金曜に間に合わないかもしれません。」
「新しい件をどの順番で進めればよいか、決めていただけますか。」

②期限が無理だと伝える時
期限に間に合わないと気づいたら、早く言うほど上司の打てる手が増えます。「間に合いません」だけで終わらせず、いつまでなら何ができるかを添えます。選べる案を2つ出すと、話は責める方向ではなく決める方向に進みます。
例文② 上司へ・期限が無理な時
「15日の締め切りの件で、ご相談があります。」
「集計に思ったより時間がかかり、15日には半分までしか出せそうにありません。」
「15日に途中まで出すか、18日に全部出すか、どちらがよろしいでしょうか。」

③上司と違う意見を言う時
上司の案に反対したい時、「違うと思います」から始めると、相手は自分が否定されたと受け取ります。先に上司の案のよい所を1つ認め、そのうえで心配な点と自分の案を出します。反対するのではなく、案を足す言い方です。
例文③ 上司へ・違う意見を言う時
「この進め方なら、来月には形にできそうですね。」
「ただ、お客様の確認を後に回すと、やり直しが出るのが心配です。」
「最初の1週間だけ、確認の時間を入れてもよろしいですか。」

④言えずに、もやもやして帰った後
知恵袋には、派遣社員の方から「職場の上司に言いたいことが言えず、悩んでいます。」という相談がありました。とっさに言いたいことを言葉にするのが苦手で、話し合いの場では「もやもやして帰ってきます。」と書いています。
※出典:Yahoo!知恵袋「職場の上司に言いたいことが言えず、悩んでいます」2021年8月

ベストアンサーは、話を整理してから、改めて時間をもらうことをすすめていました。その場で言えなくても、アサーティブに伝える機会は終わりません。次の日に、5分だけ時間をもらうところから始めれば十分です。
例文④ 上司へ・後から時間をもらう時
「昨日の打ち合わせの件で、5分だけお時間をいただけますか。」
「あの場でうまく言葉にできなかったのですが、一つ気になっていることがあります。」
「〇〇の進め方について、ご相談させてください。」
部下・同僚へのアサーティブな表現と例文4つ

⑤部下のミスを責めずに直してほしいと伝える時
「何度言えば分かるの」と言いたくなる時ほど、言い方に気をつけます。性格ではなく、資料のどこが違ったかを具体的に言います。最後に次からどうするかを一緒に決めると、部下は責められたのではなく、助けられたと感じます。
例文⑤ 部下へ・ミスを直してほしい時
「提出してくれた資料、数字が3か所違っていました。」
「お客様に出す前だったので、間に合ってよかったです。」
「次からは、出す前に5分だけ一緒に見直しましょう。」

⑥同僚に手伝いを頼む時
同僚に頼みごとをする時、遠慮して「もしお時間があれば」とぼかすと、相手は急ぎかどうかが分かりません。何を、いつまでに、どのくらい手伝ってほしいかを言い切ります。断ってもよいと添えると、相手も返事がしやすくなります。
例文⑥ 同僚へ・手伝いを頼む時
「明日の会議の資料で、表を1枚だけ手伝ってもらえませんか。」
「15時までに仕上げたいのですが、1人では間に合いそうにありません。」
「難しければ、遠慮なく断ってくださいね。」

⑦頼まれごとを断る時
頼まれごとを断れずに引き受けると、自分の仕事が後回しになります。断る時はお礼を言ってから、今できない理由を1つだけ伝え、できる日を出します。場面ごとの断り方は上手な断り方7選にまとめています。
例文⑦ 同僚へ・頼まれごとを断る時
「声をかけてくれてありがとう。」
「今日は締め切りの仕事があって、手が離せないんだ。」
「明日の午前なら30分空けられるけど、それでも間に合いそう?」

⑧会議で反対の意見を出す時
会議で反対の意見を出す時は、いきなり結論をぶつけず、発言してよいかを先に聞きます。「1点だけよろしいですか」の一言があるだけで、聞く側の構えがやわらぎます。そのうえで、心配な点と代わりの案を1つずつ言います。
例文⑧ 会議で・反対の意見を出す時
「1点だけ、よろしいですか。」
「この日程だと、検品の時間が半日しか取れないのが気になっています。」
「発送を1日遅らせる案も、検討していただけないでしょうか。」
お客様とのコミュニケーションで使えるアサーティブな例文4つ

⑨できない要望を角を立てずに断る時
できない要望には、まず要望そのものを受け止めてから、できない理由を短く伝えます。「できません」で終わると、お客様は突き放されたと感じます。最後に、代わりにできることを必ず1つ添えるのが、角を立てないこつです。
例文⑨ お客様へ・できない要望を断る時
「土曜日の配送をご希望なのですね。」
「申し訳ありません、土曜日は配送をお休みしております。」
「金曜日の夕方か、月曜日の午前でしたらお届けできますが、いかがでしょうか。」

⑩値引きや納期の無理を言われた時
値引きや納期の無理を言われると、断ったら契約がなくなるのではと不安になります。条件をそのままのむのではなく、何を変えれば応えられるかを伝えます。お客様と一緒に条件を選ぶ形にすると、交渉が対立ではなく相談になります。
例文⑩ お客様へ・値引きや納期の相談
「ご予算に合わせたいお気持ちは、よく分かります。」
「この価格のままですと、ご希望の納期にはお応えできません。」
「納期を1週間いただければ、その分お値引きできますが、いかがでしょうか。」

⑪怒っているお客様への最初の一言
怒っているお客様の前では、すぐに説明や言い訳をしたくなります。けれども最初に要るのは、相手の気持ちを受け止める一言で、事実の確認はその後にします。クレーム対応の全体の流れはクレーム対応の基本5ステップで紹介しています。
例文⑪ お客様へ・怒っている時の最初の一言
「ご不便をおかけしてしまい、申し訳ございません。」
「お届けが遅れて、お困りになったのですね。」
「状況を確かめたいので、ご注文の日を教えていただけますか。」

⑫お客様に確認の時間をもらう時
すぐに答えられない時に、あいまいなまま「たぶん大丈夫です」と答えるのは、アサーティブとはいえません。分からないことは分からないと伝え、いつまでに答えるかを約束します。待つ時間が分かるだけで、お客様の不安は小さくなります。

例文⑫ お客様へ・確認に時間がかかる時
「その点は、担当の部署に確かめる必要があります。」
「本日の17時までに、お電話でお返事いたします。」
「お急ぎでしたら、分かった所から先にお伝えしましょうか。」
ビジネスコミュニケーションのスキルとアサーティブの関係:伝える・聞く・質問する

ビジネスコミュニケーションのスキルは、伝える力・聞く力・質問する力の3つに分けて説明されることが多くあります。アサーティブは、このうち伝える力の中でも、言いにくいことを言う場面で使うスキルです。
アサーティブは「言いにくいことを伝える」スキル
報告や説明が上手な人でも、相手の希望と違うことを言う場面になると、急に言葉が出なくなることがあります。ふだんの伝える力とは別に、反対・お願い・断りを言う時の型を持っておくのが、アサーティブというスキルです。

聞く力と組み合わせると、相手も本音を話しやすくなる
アサーティブに伝えた後は、相手の返事をさえぎらずに最後まで聞きます。自分の本音を言ったら、次は相手の本音を聞く番です。聞き方のこつは傾聴力トレーニング5つで紹介しています。言い合える職場は、こうして作られます。

職場のコミュニケーションは、質問で終えると続く
例文の多くが「いかがでしょうか」「決めていただけますか」と質問で終わっているのは、相手に選ぶ番を渡すためです。言いっぱなしにせず質問で終えると、話し合いが続きます。コミュニケーション能力を鍛える順番はこちらの記事にまとめました。
アサーティブコミュニケーションが職場で難しい・できない3つの原因

アサーティブの考え方は分かっても、いざ職場で使おうとすると難しいと感じる人は多くいます。できないのは、気持ちが弱いからではありません。多くの場合、次の3つのどれかが、言葉が出るのを止めています。
否定される・嫌われるのが怖くて本音を飲み込む
言い返されたらどうしよう、嫌われたらどうしようと考えると、黙っているほうが安全に思えます。けれども、飲み込んだ本音は消えずにたまっていきます。意見が言えない原因と直し方は自分の意見が言えない原因と直し方5つで紹介しています。

その場で言葉にする時間が足りない
会議や立ち話では、考えがまとまる前に話が次へ進んでしまいます。とっさに言葉にするのが苦手な人は、その場で言おうとしなくてかまいません。2章の例文④のように、時間をもらってから伝えるのも立派なアサーティブです。

言いにくいことを言う時に声が震える・頭が真っ白になる
相手が上司や大切なお客様だと、話し始めた途端に声が震えたり、頭が真っ白になったりすることがあります。これは言い方の問題ではなく、人前で話す時の緊張です。緊張がある前提で、言う中身を紙に書いておくと言葉が出やすくなります。
監修の吉松欣史も、ルーキー時代は本番で用意した言葉が全部飛び、アナウンサーに向いていないと悩んだといいます。言えない悩みは、話すことを仕事にしてきた人にもある、ありふれた悩みです。
元NHK
アナウンサー
ヨシ
「自分はアナウンサーに向いていないんじゃないか」。本気で、辞めようと思った夜があります。
アサーティブに伝える時にやってはいけないこと:
謝りすぎ・ため込み・長い前置き

アサーティブに伝えようとして、かえって伝わらなくなる言い方があります。どれも相手に気をつかった結果なので、自分では気づきにくいのが落とし穴です。よくある3つの言い方と、代わりにする言い方を表にまとめました。
| やめること | 代わりにすること |
|---|---|
| 謝りを重ねる | 謝るのは最初の1回だけ |
| ためて一気に言う | 気になった日のうちに1つだけ言う |
| 前置きが長い | お願いを最初の2文以内に入れる |
「すみません」を何度も重ねて、本題が伝わらない
「すみません、お忙しいところすみません」と謝りを重ねると、聞く側は何を頼まれるのか分からず身構えます。謝るのは最初の1回で十分です。謝りが多いほど、自分のお願いが小さく軽く見えてしまうことも覚えておいてください。
我慢をためて、ある日一気に強く言う
小さな不満を飲み込み続けると、ある日こらえきれずに強い言葉で言ってしまいます。受け身の言い方を続けた先に、攻撃的な言い方が待っているのです。気になったことは、小さいうちに1つずつ伝えるほうが相手も受け止めやすくなります。

前置きが長く、お願いを最後まで言わない
相手に悪いと思うほど、事情の説明が長くなり、肝心のお願いが最後になります。聞く側は途中で、話の行き先が分からなくなります。何をしてほしいかは最初の2文以内に入れ、事情はその後に短く足すくらいがちょうどよい長さです。
アサーティブコミュニケーションのよくある誤解・注意点

誤解①:アサーティブとは、はっきり強く言うこと
アサーティブを「はっきり言うこと」と覚えると、強い言い方をしなければと思い込んでしまいます。けれどもアサーティブは、相手を大切にすることも同じくらい重んじます。声を大きくするより、言う中身をはっきりさせるほうが大切です。

誤解②:本音を言ったら「強すぎた」と思われる
言いにくいことを言った後、強く言いすぎたかもと気になる人は多いはずです。コロンビア大学のエイムズらが交渉の授業を受けるMBAの学生172人を調べた研究では、相手からちょうどよい強さだと見られていた人の43%が、自分は強く言いすぎたと思っていました。
※出典:Ames & Wazlawek(2014)Pushing in the Dark, Personality and Social Psychology Bulletin(研究3)
この思い込みがある人は、関係を直そうとして、次の話し合いで自分に不利な条件をのむことがあったと報告されています。言った後に不安になっても、相手はそう受け取っていないことが多いと知っておけば、本音を引っ込めずにすみます。

誤解③:研修を受ければ、誰でもすぐに言えるようになる
アサーティブの研修で型を覚えても、本番で相手の前で言えるかは別の話です。頭で分かっていても、緊張すると言葉が出なくなるからです。型を覚えたら、言いやすい相手と小さな場面から試し、言えた経験を少しずつ増やしていきます。
監修の吉松欣史も、入社当初は人前に立つと声が震え、頭が真っ白になっていたといいます。そこから32年間、全国の放送局で生放送に立ち続け、何百人もの一流アスリートに、プレッシャーとどう向き合っているかをたずねてきました。
元NHK
アナウンサー
ヨシ
何万人が見ている本番に立ち続け、何百人もの一流アスリートに「プレッシャーとどう向き合っているか」を直接たずねてきた中で、私は本番で緊張に飲まれない話し方にたどり着きました。

💡 人と話すこと自体がつらい方へ
職場で人と話すのが怖くて出勤がつらい、眠れない日や食欲のない日が2週間以上続く時は、話し方より先に、心療内科や精神科、職場の産業医に相談してください。厚生労働省の働く人のための相談窓口「こころの耳」では、電話やSNSで相談できます。
言う中身は決まっているのに、上司やお客様の前に立つと声が震えて言葉が出ない方へ。入社当初は自分も声が震えていた吉松欣史が、32年の生放送でたどり着いた話し方の考え方を伝える、無料のオンライン勉強会があります。
講師の吉松欣史は、NHKで32年間アナウンサーを務め、サッカーW杯とオリンピックの実況を担当した元NHKエグゼクティブアナウンサーです。勉強会は無料のオンライン形式で、60分・顔出し不要です。人前で話す時の緊張が悩みの中心の方に向けた内容です。
※通院中・治療中の方は、この記事の方法より主治医の方針を優先してください。
\ 人前で話す時の緊張が中心の方へ /
アサーティブコミュニケーションでよくある質問と答え
Qアサーションとアサーティブの違いは?
QDESC法とは何ですか?
Qノンアサーティブな自分を直すには?
Q相手が強い言い方をする上司の時は?
Qメールやチャットでも使えますか?
Q会社でアサーティブの研修を受けたい時は?
アサーティブコミュニケーションは、例文を先に持っておけば、本音を飲み込んできた人でも上司やお客様に言えるようになります。人前で話す時の緊張が中心の方は、吉松欣史の無料オンライン勉強会(60分・顔出し不要)で、緊張と付き合いながら話すための考え方を知ってください。
講師の吉松欣史は、NHKで32年間アナウンサーを務め、サッカーW杯とオリンピックの実況を担当した元NHKエグゼクティブアナウンサーです。勉強会は無料のオンライン形式で、60分・顔出し不要です。人前で話す時の緊張が悩みの中心の方に向けた内容です。
※通院中・治療中の方は、この記事の方法より主治医の方針を優先してください。
\ 最後まで読んだあなたへ /
元NHKアナウンサー吉松欣史が漫画で解説あがり症の正体、無料の漫画で読めます発声の問題?あがり症?選ぶ前に違いを知る悩みの見分け方を無料で読めますLINEで無料漫画を読む

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