アナウンサー
専門脳科学・心理学を使ったあがり症の克服
「報告に行くだけで心臓がドキドキする」「会議で名前を呼ばれるのが怖い」。人と関わる場面がつらくて、仕事そのものが苦しくなっていませんか。
この記事では、対人恐怖症を克服する5つの順番と、仕事を続けながら使える職場の工夫を解説します。対人恐怖症は、正しい順番で取り組めば克服できます。
- 対人恐怖症を自分で克服する5つの順番
- 報告・会議・電話で今日から使える職場の工夫
- 受診の目安と、一人で抱えないための相談先
対人恐怖症の治し方:自分で克服する5つの順番

⚠️ 先に医療機関へ相談してほしい人
次のどれかに当てはまる時は、この記事の方法より先に、心療内科・精神科に相談してください。
たとえば、眠れない・食べられない状態が2週間以上続いている時、朝に体が動かず出勤できない日がある時、「死にたい」と考えることがある時です。
今すぐ話を聞いてほしい時は、24時間・無料でつながる電話窓口があります。「#いのちSOS」は0120-061-338、「よりそいホットライン」は0120-279-338です。
多くの人は「明日から人前でも平気になろう」と、一気に変わろうとします。でも、怖い場面から挑むほど失敗の記憶が増え、かえって人が怖くなります。
大切なのは、小さな場面から順番に「大丈夫だった」を積み重ねることです。次の5つを、上から順に進めてください。
- ①小さな場面から慣らす怖さに点数をつけ、低い所から
- ②事実と考えを分ける「嫌われた」をノートで確かめる
- ③注意を外へ向ける自分ではなく相手と話の中身へ
- ④息を長く吐く体の緊張を先に下げる
- ⑤7割で合格にする完璧に話そうとしない
①怖さの小さい場面から順に慣らす
まず、職場で人と関わる場面を書き出し、怖さに0〜100の点数をつけます。点数は感覚でかまわないので、思いつく場面をできるだけ多く並べてください。

取り組むのは、30〜40点くらいの「少し怖いけれど、できそうな場面」からです。同じ場面を何度か経験して怖さが下がったら、次の段へ進みましょう。
たとえば、同僚に「おはようございます」と言うのが20点、上司に1行で報告するのが40点、少人数の打ち合わせで一言話すのが60点、会議で自分の意見を言うのが80点。こう並べると、最初に取り組むのは「上司に1行で報告する」あたりになります。

②「嫌われた」を事実と分けて書く
人と話した後、「嫌われたに違いない」と考え続けていませんか。対人恐怖症の人は、相手の表情や沈黙を悪い方に読む癖がつきがちです。
気になった場面は、「起きた事実」と「自分の考え」に分けて書きます。報告の後、上司が黙って画面に目を戻した。これが事実です。
「説明が下手で、あきれられた」は自分の考えです。並べて書くと、「上司は締め切り前で忙しかっただけかも」という別の見方も浮かびます。
書き出すと、怖さの多くが「事実」ではなく「自分の考え」から来ていると気づけます。気づくたびに、考えに振り回される時間は短くなります。
③注意を自分の内側から相手と話の中身へ移す

「声が震えていないか」「顔が赤くないか」と自分ばかり見張っていると、体の小さな変化まで気になり、緊張が強まります。見張るほど、周りの人は気づいていない小さな変化まで目に入ってしまうからです。
そこで注意を外へ向け直し、「相手は何を知りたいか」「自分は何を伝えるか」に意識を置いてください。外に注意を向けると不安が下がることは、研究でも確かめられています。

※出典:Wells & Papageorgiou (1998) Social phobia: Effects of external attention on anxiety, negative beliefs, and perspective taking(Behavior Therapy)
④息を長く吐いて体の緊張を下げる

緊張すると呼吸が浅く速くなり、心臓のドキドキや声の震えが強まります。そのため、話す場面の前に体の緊張を下げておくと、落ち着きを保ちやすくなります。
やり方は、4秒かけて鼻からゆっくり吸い、8秒かけて口から細く長く吐く。これを3回くり返すだけです。席やトイレでもできるので、周りに気づかれずに整えられます。
⑤完璧に話そうとせず「7割で伝わればよい」と決める

対人恐怖症の人ほど、「噛まずに話そう」「うまく説明しよう」と合格点を高くしがちです。すると、少しのつまずきで「やっぱりダメだ」と感じてしまいます。
合格点は「用件が相手に伝われば7割で十分」と決めてください。言い直しても、言葉が詰まっても、用件が伝われば仕事は前に進みます。
元NHK
アナウンサー
ヨシ
新人の頃、祇園祭の生中継で、コメントを一字一句丸暗記して臨みました。それなのに、始まった瞬間に全部飛びました。本気で辞めようと思った夜もあります。
※出典:吉松欣史 講師プロフィール
対人恐怖症で仕事がつらい時に使える職場の工夫(報告・会議・電話)

話し方の「型」を決めておくだけで、人と関わる場面の怖さは軽くなります。その場で考えることが減り、頭が真っ白になりにくくなるからです。
報告は時間と言い方の型を決める
報告のたびに「今、声をかけていいか」と迷うと、緊張が高まります。「午前11時と午後4時にまとめて報告する」など、時間を決めておきましょう。
言い方は、「〇〇の件で、1分よろしいですか」と切り出し、「予定どおり、金曜に終わります」と結論を先に言います。必要な時だけ「1点だけ、確認したいことがあります」と補足します。
会議は最初の一言だけ用意しておく

会議で一番怖いのは、話し始めの一言です。そこさえ出れば、あとはメモを見ながら話せます。反対に、最初の一言で詰まると、焦りからその後の言葉まで出にくくなります。

「私からは1点だけです」「〇〇さんの意見に賛成で、理由が1つあります」など、話し始めの一言をメモの一番上に書いておくと安心です。
電話はメモの型で頭が真っ白を防ぐ
電話は相手の顔が見えないぶん、何を聞かれるか分からない怖さがあります。電話の横に、聞くことを並べた紙を置いておきましょう。
書いておくのは、相手の会社名とお名前、何の件か、折り返しの電話番号と都合のよい時間の3つです。上から順に聞いて埋めれば、慌てずに済みます。

慣れないうちは、「確認して、折り返しお電話します」と言ってよいと決めておくと、その場で答えを出す負担が減ります。一度電話を切れば、落ち着いて調べてから話せます。
上司・産業医への伝え方
つらさが続く時は、一人で抱えず、上司や産業医に伝えることも仕事の一部です。病名は伝えなくてよく、困っていることとお願いを具体的に話します。
たとえば「大人数の会議だと、緊張が強く出ます」と困っていることを伝え、「発言は事前にメモで出させてもらえますか」とお願いを添えます。

何に困っていて、どうしてもらえると助かるかが分かると、周りも手を貸しやすくなります。病名や詳しい事情まで話す必要はなく、困る場面とお願いを1つずつ伝えれば十分です。
対人恐怖症かも?診断の前のセルフチェック:職場で出やすい症状と社交不安症・あがり症との違い

対人恐怖症は、人と接する場面で強い不安や緊張を感じ、その場面を避けるようになる状態です。人前で話す場面だけでなく、挨拶や雑談など、人と接する場面の全般で起きるのが特徴です。
職場で出やすい7つのサイン(症状のセルフチェック)
まず、上司に声をかける前に何度もためらう、会議で名前を呼ばれる前から心臓がドキドキする、電話が鳴るたびに体がこわばる。報告・会議・電話という毎日の場面に出るサインです。

人の目を見て話せない、休憩室や飲み会を避けてしまう、というサインもあります。さらに、話した後に何時間も反省が止まらない、赤面や声の震え・汗が気になって仕方ない、というものです。
当てはまる数が多いほど、人と関わる場面で無理をしています。ただし、これは病気かどうかを決めるものではありません。
こんな時は先に心療内科・精神科へ(受診の目安)
つらさが数か月以上続いている、出勤や外出ができない日が増えた、眠れない・食べられない日が続く、「消えたい」と思うことがある。こうした時は、自分だけで克服しようとせず、専門の医療機関に相談してください。
会社に産業医がいれば、まず産業医に相談する方法もあります。産業医は働く人の健康を守る立場の医師なので、仕事の負担のことも含めて話せます。
対人恐怖症と社交不安障害(社交不安症)・あがり症の違い
対人恐怖症は、日本で昔から使われてきた呼び名です。医療の現場では、近い状態を「社交不安症(社交不安障害)」と呼びます。呼び名は違っても、悩みの中身は重なる部分が大きいです。
※出典:こころの耳「社交不安障害(社会不安障害)」用語解説
- あがり症人前で話す・発表する場面の緊張が中心
- 対人恐怖症人と接する場面の全般が怖くなる
- 社交不安症医療機関が診断する時の呼び名
人前で話す時の緊張が悩みの中心なら、あがり症と同じ考え方で克服できる部分が大きくあります。人と接する場面の全般がつらい時は、上の受診の目安もあわせて確かめてください。
対人恐怖症の原因:なぜ人が怖くなるのか

対人恐怖症は、性格の弱さで起きるものではありません。いくつかの原因が重なり、「人と関わる場面は危ない」と脳が覚えてしまった状態です。
「どう見られているか」に注意が向きすぎる
人と話す時に「変に思われていないか」と自分の見え方ばかり気にしていると、相手の小さな反応が全部、自分への評価に見えてきます。真面目で、周りに気をつかう人ほど、この状態になりやすいです。
怒られた・笑われた体験が残っている
人前で強く叱られた、話し方を笑われたなどの体験があると、似た場面で体が先に身構えます。頭では「もう大丈夫」と分かっていても体が反応するのは、このためです。
体の反応がさらに不安を呼ぶ悪循環

緊張で顔が赤くなったり声が震えたりすると、「気づかれたらどうしよう」とさらに不安になります。その不安で体の反応がまた強くなる、という悪循環が起きます。
人と話す場面が近づくと、心臓がドキドキして声が震える。「気づかれた、変に思われた」と考え、その場面を避ける。避けたことで、次はもっと怖くなります。
この悪循環は、体・考え・行動のどこか1か所を変えるだけでも弱まります。克服する5つの順番は、それぞれがこの輪のどこかを切るためのものです。
対人恐怖症でやってはいけないこと:悪化させるNG対処法

良かれと思ってやっていることが、かえって怖さを強めている場合があります。どれも怖さから自分を守ろうとしてやっていることなので、自分を責める必要はありません。
避け続ける
避けるほど「やっぱり危なかった」と脳が覚え、次の同じ場面がもっと怖くなります。その結果、避ける場面がだんだん増え、職場で人と関わること自体がつらくなっていきます。
⚠️ やってはいけない:全部の場面から逃げ続ける
いきなり全部に挑む必要はありません。克服する5つの順番の①のように、小さな場面から少しずつ戻ることが大切です。
「慣れれば治る」と無理に場数を踏む
反対に、怖さの強い場面に何度も飛び込むのも逆効果です。失敗の記憶ばかり増えて、「やっぱり自分はダメだ」という思い込みが強まります。
場数は「少し怖いけれど、うまくいく」くらいの場面で踏むと力になります。
元NHK
アナウンサー
ヨシ
私の指導でも、安全な場で成功体験を積み上げることを柱の1つにしています。
お酒や頭の中の反省会で紛らわせる

飲み会の前にお酒で緊張をごまかしたり、帰り道に会話を何度も思い返して反省したりするのも、怖さを長引かせます。どちらも、その場はしのげても、次の場面の怖さは減らないからです。
反省会が始まったら、克服する5つの順番の②のように「事実」と「考え」を分けて紙に書きましょう。頭の中だけで考え続けないことが大切です。
対人恐怖症の人に向いている仕事と働き方の選び方

克服に取り組んでいる間、今の仕事がどうしてもつらいなら、働き方を変えるのも1つの選択です。逃げではなく、自分に合った環境で力を出すための判断です。
負担が少ない仕事の3つの特徴
人と関わる負担が少ない仕事には、3つの共通点があります。1つ目は、一人で進める作業が多く、一人の時間が長いこと。2つ目は、やり取りの相手と内容がほぼ決まっていることです。
3つ目は、チャットやメールなど、文字でのやり取りが中心になっていることです。この3つがそろうほど、その場で考えて話す場面が減っていきます。
向いている仕事の例(事務・データ入力・工場・配送・在宅の仕事)
- 事務・データ入力決まった手順で、一人で進める時間が長い
- 工場の製造・検品作業中の会話が少ない
- 配送ドライバー運転中は一人。届け先とのやり取りはある
- 在宅のプログラマー・ライター連絡の多くを文字でできる
どの仕事にも、人と関わる場面は少しはあります。「人と全く話さない仕事」を探すより、「話す場面が決まっていて、準備できる仕事」を選ぶ方が長く続けやすくなります。

ほかの仕事も知りたい方は、人と関わらない仕事30選にまとめています。接客や電話を避けたい人に向けて、未経験から始めやすい仕事を中心に紹介しています。
転職の前に、今の会社で負担を減らす方法(異動・在宅勤務)
転職は、収入や人間関係が一度にがらりと変わる大きな決断です。怖さが強いまま急いで決めると、新しい職場でも同じ悩みをくり返すことがあります。
今の会社で相談しやすいのは、電話や来客の少ない部署への異動、週に何日かの在宅勤務、電話当番などを一時的に外してもらう担当の調整です。
転職するときに確かめたいこと
求人票の仕事内容だけで決めないことが大切です。面接で「1日のうち人とやり取りする時間はどれくらいか」「連絡はチャット中心か電話中心か」を聞いておくと、入ってからのずれを防げます。
元NHKエグゼクティブアナウンサーが大切にしている「話す怖さ」との付き合い方

この記事を監修した吉松欣史は、NHKで32年間アナウンサーを務め、サッカーW杯とオリンピックの実況を担当しました。そんな吉松も、新人の頃は人前に立つと声が震え、頭が真っ白になっていました。

その後、数百名の一流アスリートに「プレッシャーとの向き合い方」を直接取材し、32年の生放送の経験とあわせて体系にまとめたのが「トライアングルメソッド」です。
柱は脳・心・環境の3つです。脳では緊張が生まれる仕組みと向き合い、環境では安全な場で成功体験を積み上げます。心の柱は、次の吉松の言葉のとおりです。
元NHK
アナウンサー
ヨシ
「どう見られるか」への意識を「何を届けるか」へ転換する。これが、私の指導の3つの柱の1つです。
人と話す怖さも、意識の矢印を「どう見られるか」から「何を届けるか」へ向け直すことで、和らげていけます。
対人恐怖症は何科?病院・カウンセリングなど一人で抱えないための相談先

対人恐怖症の悩みは、周りに言いにくく、一人で抱え込みがちです。話を聞いてもらうだけでも、気持ちが軽くなることがあります。
医療機関(心療内科・精神科)
眠れない、出勤できないなど、生活に支障が出ている時の相談先です。医師が状態を見たうえで、カウンセリングや薬などを一緒に考えてくれます。
カウンセリング
病院に行くほどではないけれど、誰かに話を聞いてほしい時に向いています。相談相手は公認心理師や臨床心理士で、オンラインで受けられる所もあります。
職場の産業医・就労支援
会社に産業医や保健師がいる場合は、仕事の負担について相談できます。厚生労働省のこころの耳には、働く人のための相談窓口の案内があります。
すでに休職している人は、就労移行支援などを受けながら、少しずつ仕事に戻る方法もあります。焦らず、自分のペースで戻れる道を選んでください。
対人恐怖症は治らない?克服でよくある誤解・注意点

真面目な人ほど陥りやすい誤解があります。「怖さがゼロになったら克服」「性格だから変えられない」など、どれも克服を遠ざけてしまう考え方です。
💡 「怖さがゼロになったら克服」ではない
克服とは、怖さが少し残っていても、必要な場面で人と関われるようになることです。ゼロを目指すと、いつまでも「まだダメだ」と感じてしまいます。

ほかにも誤解が3つあります。1つ目は「性格だから変えられない」。でも、人を怖がる反応は脳が覚えたものなので、順番に取り組めば変えられます。
2つ目は「一気に場数を踏めば治る」。実際は、小さな成功を積み上げる方が早く進みます。3つ目は「緊張を隠せば大丈夫」。隠そうとするほど自分に注意が向き、かえって緊張が強まります。

焦って一気に治そうとせず、小さな「大丈夫だった」を積み上げることが、克服への近道です。
人前で話す時の緊張(あがり症)が悩みの中心の方へ。吉松欣史が、緊張と付き合いながら話すための考え方をお伝えする無料のオンライン勉強会があります。
講師の吉松は、NHKで32年間アナウンサーを務め、W杯と五輪の実況を担当した元NHKエグゼクティブアナウンサーです。勉強会は60分・顔出し不要で、人前で話す時の緊張が悩みの中心の方に向けた内容です。
※通院中・治療中の方は、この記事の方法より主治医の方針を優先してください。
\ 人前で話す時の緊張が中心の方へ /
よくある質問
Q対人恐怖症は自力で克服できますか?
Q病院は何科を受診すればいいですか?
Qあがり症と対人恐怖症はどう違いますか?
Q仕事は辞めた方がいいですか?
Qどのくらいで克服できますか?
Q薬を使わずに楽になる方法はありますか?
Q目を見て話せないのも対人恐怖症ですか?
人と話す怖さは、あなたの性格のせいではありません。人前で話す時の緊張が中心の方は、吉松欣史の無料オンライン勉強会(60分・顔出し不要)で、緊張と付き合いながら話すための考え方に触れてみてください。
吉松は、NHKで32年間アナウンサーを務め、W杯と五輪の実況を担当した元NHKエグゼクティブアナウンサーです。その吉松自身も、新人の頃に本番で頭が真っ白になった経験を持っています。
※通院中・治療中の方は、この記事の方法より主治医の方針を優先してください。
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