アナウンサー
専門脳科学・心理学を使ったあがり症の克服
「部下のミスを注意したいのに、パワハラと言われるのが怖くて言葉を飲み込んでしまう」。叱る役目は、管理職になったとたんに回ってきます。遠慮して注意を先送りするほど、同じミスが繰り返されてしまいます。
この記事では、元NHKエグゼクティブアナウンサー・吉松欣史の監修のもと、部下が育つ叱り方の5つの手順と場面別の例文、パワハラになる叱り方との境目を紹介します。
- 部下を萎縮させない叱り方の5つの手順と、場面別・相手別の例文
- パワハラになる叱り方とならない叱り方の境目
- 怒ると叱るの違い、叱った後のフォローと、叱る前に緊張して言葉が出ない時の準備
部下の上手な叱り方5つの手順:コツは場所→事実→理由→考えてもらう→期待で締める

叱り方で迷う上司の多くは、何をどの順番で言うかが決まっていないだけです。次の5つの手順で話せば、強い言葉を使わなくても、部下を萎縮させずに何を直せばいいかをはっきり伝えられます。
- 1. 場所とタイミング1対1になれる所で、その日のうちに
- 2. 事実いつ・何が起きたかだけを伝える
- 3. 理由と影響なぜ困るのかを具体的に説明する
- 4. 考えてもらう原因と次のやり方を部下に聞く
- 5. 期待で締める認めている点と期待を伝えて終える
1対1になれる場所と、その日のうちのタイミングを選ぶ
叱る場所は、会議室や打ち合わせブースなど、ほかの人に聞こえない所を選びます。周りの目がある所で注意されると、部下は内容より恥ずかしさで頭がいっぱいになり、話が入らなくなるからです。
タイミングは、できればその日のうちです。時間がたつほど部下は何のことか思い出しにくくなり、上司の側も、ため込んだ不満が言葉に混ざりやすくなります。自分がカッとしている時だけは、少し落ち着いてから声をかけてください。
憶測を入れずに事実だけを伝える

最初に伝えるのは、いつ・何が起きたかという事実だけです。「やる気がないから」「いつも適当だから」といった憶測を入れると、部下は事実ではなく決めつけに反発し、話がこじれてしまいます。
叱る時に背景や前置きから話し始めると、部下は何を言われているのか分からないまま身構えてしまいます。最初の一言で事実を伝えると、話が短く済み、部下もすぐに本題に向き合えます。ニュースの伝え方も同じ考え方です。
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ニュース原稿は、最初の一文で結論を伝えることが徹底されています。いつ映像が切り替わっても、視聴者が理解できるようにするためです。
※出典:TID「職場での話し方に関する意識調査2026」監修者コメント
なぜ問題なのか、理由と影響を説明する
事実を伝えたら、それがなぜ問題なのかを説明します。「締切に遅れると、先方の会議に資料が間に合わなくなる」のように影響を具体的に言うと、部下は叱られた理由に納得しやすくなります。
このとき、上司の気持ちを短く言葉にするのも一つの方法です。「正直、先方に謝りながらひやっとした」と一言添えると、声を荒らげなくても本気度が伝わります。怒りをぶつけるのではなく、言葉で伝えるのがこつです。
原因と次のやり方を部下に考えてもらう

次は、部下に話してもらう番です。「何があったのか教えてくれる?」「次に同じことが起きないように、どうしたらいいと思う?」と、これからのやり方に目を向けた聞き方をします。
「なぜできなかったの?」を何度も重ねると、問い詰める響きが強くなり、部下は言い訳を探し始めます。部下が自分で考えた改善策は、上司が決めた策よりも続きやすいので、答えが出るまで少し待ちましょう。
期待していることを伝えて前向きに締める

最後は、期待していることを伝えて終わります。「提案書はいつも分かりやすいから、締切さえ守れればもっと任せたい」のように、直してほしい点と、認めている点をセットで伝えると、部下は前を向いて仕事に戻れます。
話が長くなるほど要点がぼやけるので、1回の注意で伝えることは1つに絞ります。いくつも気になる点があっても、今日いちばん直してほしいことだけを選ぶと、部下は迷わずに次の行動へ移せます。
場面別・相手別の部下の叱り方の例文と、年上の部下への注意の仕方

遅刻が続く部下への例文
遅刻は事実がはっきりしているので、回数と日付をそろえて伝えます。人柄ではなく行動について話し、遅れる事情があれば先に聞く姿勢を見せると、部下も本当の理由を話しやすくなります。
同じミスを繰り返す部下への例文

同じミスが続く時は、叱る前にやり方に原因がないかを一緒に確かめます。手順書がない、確認の時間が取れないなど、本人の注意力だけでは防げない理由が見つかることも少なくありません。
報告・連絡・相談が無い部下への例文

報告がない部下には、報告がなくて何が困ったのかを伝え、いつ・何を報告してほしいのかを具体的に決めます。「ちゃんと報告して」だけでは、何をすればいいのかが部下に伝わりません。
打たれ弱い若手が萎縮しない言い方

すぐに落ち込む若手には、叱る前に「責めたいのではなく、次にうまくいくように話したい」と目的を先に伝えます。声の大きさを落とし、直してほしい点を1つに絞ると、萎縮せずに最後まで聞いてもらえます。
話の最後に「分からないことがあったら、いつでも聞いてね」と相談できる道を残しておくのも大切です。叱られた後に一人で抱え込むと、同じ失敗を怖がって、かえって動けなくなるからです。
年上の部下を傷つけない言い方

年上の部下には、命令ではなく相談の形で伝えると角が立ちません。「経験の長い○○さんに、ぜひお願いしたいことがあります」と敬意を先に示し、事実と困っている点を落ち着いて伝えます。
パワハラになる叱り方とならない叱り方の境目:ダメな叱り方7つ

パワハラの3つの要素と「業務上必要な指導」の違い
厚生労働省の指針では、職場のパワハラを「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」の3つをすべて満たすものとしています。
※出典:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号・令和8年10月1日適用)

同じ指針では、遅刻など社会的ルールを欠いた言動が、再三注意しても改善されない人に一定程度強く注意することは、パワハラに当たらない例に挙げられています。遠慮しすぎる必要はありません。
つまり、仕事に必要な注意を、必要な範囲で伝えること自体はパワハラではありません。問題になるのは、言い方や回数、場所が行き過ぎた時です。次の7つは、その境目を越えやすい叱り方です。
やってはいけない7つの叱り方
- 人前で叱るほかの社員がいる所で大声で注意する
- 人格を否定する「だからダメなんだ」と人柄を責める
- 人と比べる「○○さんはできるのに」と言う
- 長時間・過去を蒸し返す何十分も続け、前の失敗まで持ち出す
- 感情的になる机をたたく、ため息をつく、にらむ
- 何が悪いか曖昧「ちゃんとして」だけで終わらせる
- 「なぜ」で問い詰める答えにくい質問を何度も重ねる
このうち、人格を否定するような言動、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返すこと、ほかの社員の前での大声での威圧的な叱責を繰り返すことは、指針でもパワハラに当たると考えられる例に挙げられています。
NGな言葉とその言い換え
同じ注意でも、言葉を少し変えるだけで部下の受け取り方は大きく変わります。つい口にしがちなNGな言葉と言い換え、部下にどう聞こえるかを表にまとめました。
叱る時のNGな言葉と言い換え4つ
| NGな言葉 | 言い換え | 部下にはこう聞こえる |
|---|---|---|
| 何回言ったら分かるの? | 2回目だから、やり方を一緒に見直そう | 責められず、手伝ってもらえる |
| やる気あるの? | 締切に間に合わなかった理由を教えて | 人柄ではなく出来事の話だと分かる |
| ○○さんはできているのに | ○○さんの強みを、ここでも生かしてほしい | 比べられず、期待されている |
| 普通はこうするでしょ | うちのチームでは、こう進めることにしている | 決まりとして納得できる |
叱った後のフォローで関係を保つ3つの声かけ

叱った後の関係は、叱った時の言葉よりも、その後の声かけで決まります。「叱った後に気まずくなるのが怖い」という上司ほど、次の3つの声かけを決めておくと、安心して叱れるようになります。
その日のうちにかける一言
叱った日の帰り際に、「さっきは時間を取ってくれてありがとう」「明日からよろしくね」と一言かけます。話は終わったという合図になり、部下は気持ちを切り替えて翌日を迎えられます。
翌日以降の様子を見る声かけ
翌日から数日は、叱った内容と関係のない話題でも普段どおりに声をかけます。上司の態度が変わらないと分かると、部下は嫌われたわけではないと安心し、困った時にも相談しやすくなります。
良くなった時にすぐ認める

叱った点が少しでも良くなったら、その場ですぐに認めます。「今日の報告、早くて助かったよ」のように具体的に言うと、叱られた記憶が「期待されていた」という記憶に変わります。
認める一言は、叱る時と同じくらい部下の行動を変えます。叱った内容をメモしておき、変化に気づいたらその日のうちに伝えると、部下は自分の努力がちゃんと見られていると感じられます。
怒ると叱るの違い:部下を怒らずに叱る理由と、叱れない上司のリスク

怒るは自分のため、叱るは相手のため
「怒る」は、自分のいら立ちを相手にぶつけることです。一方の「叱る」は、相手がこれからうまくいくように、直してほしい点を伝えることです。言葉は似ていても、向いている先が自分か相手かで違います。
叱っているつもりでも、声が大きくなったり、昔の失敗まで持ち出したりしたら、怒りに変わり始めた合図です。カッとした時に口に出す前に止める方法は、アンガーマネジメントのやり方の記事で紹介しています。
叱らない上司のチームで起きること

叱るのが怖くて注意を先送りしても、問題は消えずに周りへ広がります。働く人500名への調査では、同僚や上司の話し方にイラッとした経験がある人は71%いた一方、話し方を指摘された経験がある人は18%でした。
※出典:TID「職場での話し方に関する意識調査2026」(全国の20〜60代の働く男女500名・2026年7〜8月)
不満は広がっているのに、本人には届いていないということです。注意されない部下は直すきっかけを失い、周りの社員は不公平を感じます。叱ることは、チーム全体を守る上司の仕事でもあります。
叱る前に緊張して言葉が出ない・声が上ずる時の準備

伝える順番を3行のメモにしておく
叱る前に、「事実」「困ること」「お願い」の3行だけを手帳やスマホにメモします。たとえば「見積書が半日遅れた」「先方の会議に間に合わない」「遅れそうな時は前日に教えて」の3行です。
緊張すると、頭の中で準備していた言葉ほど飛びやすくなります。3行のメモがあれば、途中で言葉に詰まっても次に何を言うかに戻れます。前置きが長くなるのも防げるので、話が短くまとまります。
話す前に息を吐き、低くゆっくり話す

緊張すると呼吸が浅くなり、声が高く早口になります。部下を呼ぶ前に、一度息を長く吐き切ってから話し始めてください。いつもより少し低く、ゆっくりした声で最初の一言を出すと、落ち着いた印象で伝わります。
声が上ずったり早口になったりすると、上司自身が焦っているように見え、注意の重みも伝わりにくくなります。落ち着いた声は、強い言葉よりも本気さを伝えてくれます。部下が動く伝え方は、リーダーシップの記事でも紹介しています。
元NHKエグゼクティブアナウンサーが大切にしている「伝わる話し方」の考え方

監修の吉松欣史は、1991年にNHKに入局し、32年間アナウンサーを務めました。W杯南アフリカ大会やロンドンオリンピックの生放送を担当し、今は法人や個人に向けて話し方の研修を行っています。
元NHK
アナウンサー
ヨシ
実は、入社当初の私は、人前に立つと声が震え、頭が真っ白になっていました。
その経験から吉松が指導で大切にしている柱の1つが、「どう見られるか」への意識を「何を届けるか」へ向け直すことです。叱る場面でも「怖い上司と思われないか」より「何を直してほしいか」に意識を向けると、言葉が短くはっきりします。
部下の叱り方でよくある誤解・注意点

「優しく言えばパワハラではない」は誤解
パワハラかどうかは、言い方のやわらかさだけでは決まりません。丁寧な言葉でも、人前で何度も責めたり長時間同じことを言い続けたりすれば、行き過ぎた言動と受け取られます。
「叱らなければ嫌われない」は誤解
叱らずにいれば波風は立ちませんが、注意すべき時に黙る上司は、まじめに働く部下から見て見ぬふりをする人と思われ、かえって信頼を失います。
話し方の型を覚えても、緊張はそれだけでは消えない
手順や例文は話す順番を助けてくれますが、叱る場面を考えるだけで眠れないほど緊張する時は、緊張そのものへの向き合い方も必要になります。
部下が心身の不調を訴えた時・パワハラの相談先

⚠️ 相談先の目安
部下が眠れない・食欲がないなどの不調を訴えたら、人事や産業医につないでください。パワハラの社外の相談先は厚生労働省の「総合労働相談コーナー」(無料・匿名可)です。上司自身が強い不安で眠れない日が2週間以上続く時は、医療機関や「こころの耳」に相談してください。
部下を叱る前に、声が上ずったり言葉が出なくなったりする方へ。吉松欣史が、緊張と付き合いながら話すための考え方を伝える無料のオンライン勉強会があります。
講師の吉松欣史は、NHKで32年間アナウンサーを務め、サッカーW杯とオリンピックの生放送を担当した元NHKエグゼクティブアナウンサーです。勉強会は無料のオンライン形式で、60分・顔出し不要です。人前で話す時の緊張が悩みの中心の方に向けた内容です。
※通院中・治療中の方は、この記事の方法より主治医の方針を優先してください。
\ 人前で話す時の緊張が中心の方へ /
部下の叱り方でよくある質問
Q何度言っても直らない部下はどうすればいいですか?
Q「なぜ?」と聞くのはNGですか?
Qメールやチャットで叱ってもいいですか?
Q叱った後に部下が落ち込んでしまったらどうすればいいですか?
Q年上の部下や女性の部下で、叱り方を変えるべきですか?
Q叱るのが苦手で、どうしても言えません。
部下を叱れないのは、あなたが優しすぎるからでも、上司に向いていないからでもありません。人前で話す時の緊張が中心の方は、吉松欣史の無料オンライン勉強会(60分・顔出し不要)で、緊張と付き合いながら話すための考え方に触れてみてください。吉松自身も、入社当初は人前に立つと頭が真っ白になっていた講師です。
講師の吉松欣史は、NHKで32年間アナウンサーを務め、サッカーW杯とオリンピックの生放送を担当した元NHKエグゼクティブアナウンサーです。勉強会は無料のオンライン形式で、60分・顔出し不要です。人前で話す時の緊張が悩みの中心の方に向けた内容です。
※通院中・治療中の方は、この記事の方法より主治医の方針を優先してください。
\ 最後まで読んだあなたへ /
元NHKアナウンサー吉松欣史が漫画で解説あがり症の正体、無料の漫画で読めます発声の問題?あがり症?選ぶ前に違いを知る悩みの見分け方を無料で読めますLINEで無料漫画を読む

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